ブルーの好きなものって具体的にはなんだと思うっ、とやけに必死な様子で尋ねてきたジョミーに、リオは考える間のない即答で二つのものを提示した。それすなわち、地球とジョミーである、と。普段なら赤くなって視線をさ迷わせる筈のその回答は、しかしジョミーのお気に召すものではなかったらしい。困った様子で眉を寄せたまではいいのだが、しょんぼりと見るからに元気を無くされてしまったリオは、慌てた。
もしかしたら、ある面では地球よりジョミーの方を大切にしているかも知れませんよっ、と力説しても、最長老の太陽は元気を取り戻しはしなかった。それこそますますしょげ返ってしまい、それは微妙に嬉しくないから地球を優先して欲しい、と言って来る。なにより大切で、誰より暖かな気持ちを抱く相手だからこそ、ジョミーは地球という故郷に対する遥かな気持ちを、ブルーと共有できることも喜んでいるのだった。
その気持ちを知っているからこそ、リオは苦笑いをして失言を謝り、首を傾げた。では、なにが気に食わなかったのかと思うのだが、よく分からない。ジョミーの思念波は強力で、近寄る心をそうとは意図せず跳ね返してしまう。拒絶しているのではないのだ。あまりに大きな力だからこそ、近寄ることや触れることが出来ないだけで。仕方なく息を吐いて、リオはジョミー、とその名を呼んだ。翠の瞳が、リオを見る。
教えてくれなければ分かりませんよ、と叱るのではなくあやしつけるようなリオの言葉に、ジョミーは唇を尖らせてだって、と言った。はい、とにこにこ笑いながら言葉を促してやると、ジョミーはお祝いしようと思ったんだ、と残念がって息を吐く。お祝い、と思念を飛ばすでもなく繰り返し、リオはさて、と考えた。なにか特別に祝うような理由や、行事があっただろうか、と。目を瞬かせるリオに、ジョミーは首を振る。
「そうじゃ、なくて。ぼくが、その、思い出したから……お祝い、したいと思って」
『思い出した? なにをです?』
「誕生日のこと。ぼく、ブルーに祝ってもらったのに、ブルーの誕生日は祝ってないだろう? だから」
成人検査の妨害は、誕生日のお祝いというのだろうか。一瞬うろんな気持ちで考えてしまったリオは、すぐにジョミーらしいと思いなおして微笑みを浮かべた。気になさらなくともいいのに、と囁くと、ジョミーはなにを意固地(いこじ) になっているのか、頑なな態度で首を振る。
「やだっ。祝うっ。祝うけど、そうだ。ねえリオ。ブルーの誕生日って、いつ?」
『……さあ』
かすかに眉を寄せ、考え込みながら分からないと返すリオに、ジョミーはこどもっぽく頬を膨らませた。そして思い出してっ、今すぐはやくっ、と急かしてくるのにジョミーを可愛がる笑みを浮かべ、リオはボケているわけではないんですよ、と告げた。
『ただ、そういえば、ソルジャーにもそういったものがあるのだ、と思い出したくらいで。そうですね、普通はありますよね……というか、無いことがありませんよね。誕生日』
「なに、それ」
今度はジョミーが困惑する番だった。精一杯眉を寄せて大きな困惑を表して見せるのを、リオはクスリと笑って止めさせる。目つきが悪くなってシワがクセになりますよ、と言いながら指先で眉間を撫でられて、ジョミーはくすぐったそうに首を引っ込めた。けれど、瞳の真剣さは隠しようも無い。鋭い、刃のような光で射抜かれて、リオは物悲しげに微笑した。なにかに対して、深く懺悔するような微笑みだった。
『お祝いした記憶が無いものですから、分からないんです』
すぅ、と。ジョミーは湖面にもぐるように深く、深く息を吸い込んで目を見開いた。信じられない、と書いてある顔から視線をそらし、リオは気がついてしまった非常識に心を痛める。そう、なぜ今まで気がつかなかったのだろう。恐らくは、船内の誰もがそうだろう。ソルジャー・ブルーには長く誕生日が存在しなかったのだ。三百年の長さで感覚が麻痺してしまって、もうどうでもいいと思っているのかも知れないのだが。
それでも、誰も、言い出さなかった。ソルジャー・ブルーの誕生日。その日を祝おう、などとは。考えてみれば、おかしなことだ。ある程度の年齢を越した者や大人たちならともかく、幼子たちは誕生日を迎えるたび、誰かが暖かな会を開いて贈り物を持ち寄り、祝福していたというのに。ジョミーは絶句したまま、言葉が出てこないようだった。忙しくまばたきしているのは、泣きたいのに涙が出ないのかも知れなかった。
やがてリオ、と乾いた声でジョミーが呼びかけてくる。
「それって一年中いつ祝っても良いってことだよね」
思念波で呼び出してブルーの誕生日を思い出すのに協力してもらっていたハーレイが、勢い良く咳き込んだ。幸いジョミーは気がついていないようだが、咳き込みこそしないものの、リオは呆然とジョミーを見つめてしまう。いま、なんと、言ったのだろうか。混乱した視線を向けてくるリオに気がつかず、ジョミーはやけに生き生きした笑顔を浮かべて拳を握り、そうだよっ、そうなんだよっ、と明るく一人で納得している。
そうかと思えば、またすぐにジョミーはしょんぼりとしてしまった。なにあげれば喜ぶんだろ、という呟きから考えると、ジョミーはブルーへの誕生日プレゼントで悩んでいたらしい。そこではじめて質問の意味を正確に理解して、リオは思い切り苦笑してしまった。わざわざ物などあげずども、ブルーはジョミーが祝ってくれる気持ちや、事実だけで十分嬉しく満たされると思うからだ。そう告げると、ジョミーはため息をつく。
「ブルーに聞いたらそう言うと思ったから、リオに聞いたのに……ぼくは、なにかあげたいんだよ」
物が全てじゃないけど、見るたび祝われて嬉しかったこと思い出すからさ、と告げるジョミーの部屋には、いつも見えるような位置にドリームランドの記念チケットが飾られているのを知っている。アタラクシアで友人だったサムに、最後に貰った誕生日の祝いであるそれを、ジョミーは今も大切な思い出のよすがにしているのだった。困った様子で首を傾げるジョミーに、リオはそうですねぇ、と苦笑する。
『ではいっそ、ジョミーをあげる、で』
「え。無理だよ。もう全部あげちゃったから」
お前らは一体どんな会話をしているんだっ、とハーレイの大絶叫が船を揺らしたが、妙な所で鈍いジョミーは音声を受信できなかった。叫ばれたことくらいは分かるようで煩げに眉を寄せたが、それくらいだ。生理的な反射で耳を塞いだリオは、騒ぎをやり過ごしてふぅと息を吐き出すと、深い慈愛を感じさせるたおやかな笑みでそれは困りましたね、と言う。困ってるんだよ、とジョミーは生真面目に、深々と頷いた。
「だって、ぼくをシャングリラに連れてきたのは、直接じゃないにしてもブルーじゃないか。その時点でブルーってぼくの保護者みたいなものだし……保護者はハーレイかな? まあいいや。それで、それに、ぼくはブルーが好きだから。これ以上あげるものって、ないじゃないか」
『ええ、そうですよね。ある意味では身も心もソルジャーのものですよね、ジョミーは。ある意味では』
「ん? うん、まあ、そうだよね」
肩を震わせて笑うリオに、ジョミーはいまいちよく分かっていない表情で同意する。意味の分からない恥ずかしさがこみ上げて来たらしく、ジョミーは頬を赤らめてリオを睨みつけるが、全くなんの効果も見られなかった。ひとしきり笑って落ち着いたリオは、憮然(ぶぜん) とするジョミーに、ソルジャーへ伝言をお願いします、と告げた。不思議そうにしながら頷くジョミーに、リオはにこにこと輝く笑顔で思念波を送る。
『まだ清らかな仲のようで安心しました。もしもの時は心の準備などしたいので、事前にご一報ください、と』
「うん。言っておくけど、それ、リオが直接ブルーに言うんじゃダメなの?」
『ええ。これはジョミーに言ってもらってこそ、効果があるものなので』
だからお前らはなんの会話をっ、と叫ぶハーレイの声は、どこかに涙が滲んでいた。胃が痛むのだろう。ソルジャーの誕生日祝いの話題に他なりませんよ、と笑顔で返して、リオは思い悩むジョミーの頭を撫でてやる。思い浮かんだものか、さもなければ自分が貰って嬉しいものでいいんですよ、と助言してやると、やっとジョミーはなにか思いついたらしかった。ぱっと笑顔が明るくなり、瞳が生き生きと輝きだす。
「良いこと思い浮かんだっ。リオっ。船の中に植物園とか、園芸部とかそういうのあるっ?」
『ええ。もちろん。ご案内しますけれど……ジョミー? なにを思いついたんですか?』
「うーん。ハーレイ先生が教えてくれたこと、かな?」
あとはナイショと笑うジョミーにくすくすと笑い返し、リオは頭の中に地図を思い描きながら歩き出した。具体的なことを教わっていないので分からないが、慣用植物でも送るつもりなのだろうか。見て和むものは良いかも、と思いつつ、リオはある可能性に思い当たって足を止める。そしてジョミーを振り返って、不審そうに問いかけた。
『ところで、ジョミー? ソルジャー・ブルーにこのことは?』
わざわざ告げずとも、同じ船内での会話で、しかもジョミーに関わることなのである。当然ブルーに知られていないわけが無いのだが、ジョミーは得意満面頷くと、大丈夫なんだ、と胸を張る。
「ちゃんと、ナイショにしたいことがあるから見たり聞いたりしないで、って頼んできたから」
『……それは、それなら、ええ、大丈夫でしょう、ね』
確立としては五分五分なのだが、ジョミーが嫌がることならブルーはしない筈である。また、バレた時に激しく機嫌を損ねる可能性があるので、そんな危険な橋は渡らないだろう。驚かせられればいいですね、と笑いかけるリオに、ジョミーは勢い良く頷いた。そして早く早く、と道案内を急かすのに合わせて、リオはやや早足で廊下を歩いていく。弾む心が溢れんばかりに伝わってくるのに、笑みが深くなった。
リオの予想に反して、ブルーは比較的素直にジョミーの申し出を聞き入れてやっていた。愛しい太陽のお願い事なのである。聞き入れて悪影響が出るわけでもなし、それくらいなら、と思ったのだ。意識をジョミーに向けない為には他に集中していればいい、と考えたブルーはその時間を書庫室で過ごす事にした。ゆっくりと本を読む時間も長く取れていなかったので、それはそれで充実して、楽しく感じられる。
胃が痛いとふらつきながら医務室へ向かうハーレイを労い、薄い本を二冊読み、後はしまっておいたジョミーの成長記録をうっとりと眺めて時間をつぶした最長老は、ふと意識を現実へと戻した。時計を見ると、ジョミーと約束した時間まで十分を切っている。書庫室とブルーの寝室は近いので、ゆっくり歩いていけばちょうど良いくらいだろう。心地よく満たされた息を吐き出して、ブルーは丁寧な仕草で本をしまう。
廊下を機嫌よく歩んでいきながら、ブルーはさて、と甘やかな微笑を浮かべて考えた。一体ジョミーは、なにをするつもりなのだろうか、と。朝はやくブルーに、今日はこの時間までいっさいぼくの様子を見たり聞いたりしないで、と言いに来たジョミーの瞳はキラキラ輝いていて、なにか楽しい計画を立てているようだった。悪戯には繋がらない悪意のないものだったので、ブルーは好きにおし、と言ってやったのだが。
さあ、どんなことをしているのだろうか。書庫から寝室までの短い散歩の途中、長老たちからジョミーに対する苦情が一つも入らなかったので、比較的落ち着いて過ごしていたということになるのだが。寝室に続く扉に手をかけながらリオを呼ぶと、嬉しさに溢れる思念で入ってのお楽しみですよ、と返されるだけで教えてはくれない。私は遠慮しましたから、どうぞ好きなだけ喜んであげてくださいね、と告げられる。
首を傾げながらもそこで思念を遮断し、ブルーは寝室の扉を音も無く開く。ぼんやりと青白い光だけが照明の広大な部屋は、特になんの変わりもないようだった。奥のベットにジョミーがちょこ、と座り込んでいるのが見える。待っていてくれた、それだけで嬉しく弾む心を自覚しながら一歩を踏み出して、ブルーは思わず目を瞬かせた。視線をすい、と動かして扉を振り返る。そしてそこに、白い花を見つけた。
内側の扉に、一輪挿しの花瓶が固定されていた。挿されているのはちいさく可憐な白い花で、ブルーにはとっさになんの花だか思い出せない。しかし丁寧なことに、花瓶の下にはネームプレートがくくりつけられていて、分かりやすく自己主張をしていた。『桜草』と書かれている。白い桜草。その花が意味する言葉を急に思い出して、ブルーは無自覚に頬を薔薇色に染め、ベットの端に腰掛けるジョミーを振り返った。
ジョミーは、そこではじめてブルーが部屋に帰ってきたことに気がついたらしい。ぱっと視線を向けてにっこりと笑いかけると、おかえりなさい、と弾む声を向けてくる。ただいま、と動揺の現れるかすれた声で返して、ブルーはことさらゆっくりとジョミーに近づいて行った。すると、ベットの隣に置かれたちいさな棚の上にも花瓶があり、花が生けられているのが確認できる。その花も、また白かった。優美な印象の椿だ。
白い椿。その花の持つ言葉を思い出して、ブルーは嬉しさで眩暈を覚えて立ち止まる。嬉しくて心が弾むなど、一体どれくらいぶりの感覚なのだろうか。それはあまりに遠い過去であり、全くはじめての感覚のような新鮮さだ。薔薇色に染まり、笑みに緩んでしまう口元を手で隠して、ブルーはなんだか居たたまれない気持ちで視線をさ迷わせる。今すぐジョミーを抱きしめて、言葉も無く目を閉じてしまいたかった。
心が、弾む。甘く痛みに軋むほど、息苦しいほど、暖かくなる。その感情の名は歓喜で、感動で、あるいは恋とも呼ぶだろう。恋しい。愛おしい。涙が出そうになるのはきっと、幸福だからだろう。大きく息を吐いて感情を沈め、やっと視線をジョミーに向けたブルーに、花が差し出される。三本目の花は、ジョミーが自らブルーに贈るものだった。赤いカーネーションを、一輪。ジョミーは手に持って、ブルーを見ていた。
「この花を……ブルーにあげられるほど、ぼくはまだしっかりしてない。ソルジャーとしても、ミュウとしても未熟だって分かってる。でも、そういう風に、相応しくなっていきたいと思うから。受け取って、くれますか。ブルー」
「花言葉を。知っているなら、教えてくれないか。ジョミー?」
思い出せないんだ、とくすくす笑って、ブルーはジョミーの告げた言葉についてはなにも言わず、差し出された手ごと花を包み込むように両手を重ねた。恥ずかしさにだろう、かすかに手を振るわせたジョミーは、恨めしそうな目でブルーを軽く睨みあげた。嘘つきだ、知ってるせに、とテレパシーが飛んできても、ブルーは微笑むだけで言葉を待っている。一分と持たず根負けして、ジョミーはぽそぽそと呟いた。
「赤いカーネーションの花言葉は、『あらゆる試練に耐えた誠実』と……『純粋な、愛情』」
「ああ、そうだね。白い桜草は『初恋』で、白い椿は『あなたを敬慕します』。どれも、ジョミーの気持ち?」
「わ、分かってるくせにっ。なんで一々聞くんだよっ」
いじわるっ、と顔を真っ赤にして叫んでくるジョミーに、ブルーは愛しさを隠そうともしない微笑みで直接聞きたいからだよ、と静かに告げた。声を荒げもしない優しい要請だからこそ、ジョミーは恥ずかしさに脱力してしまって声もない。そんなジョミーに笑みを深くして、ブルーは包み込むようにしていた両手を動かした。中にジョミーの手を含んだままで花を口元まで持っていって、目を伏せ、そっと花弁に唇を落とす。
「ありがとう、ジョミー。とても嬉しいよ」
今日はこの準備をしていたの、と問いかけるブルーに、ジョミーはもう花から手を離してしまいたい気持ちでいっぱいになりながら頷いた。軽く手を動かしてみるも、やんわり包み込んでいるブルーの手は動きもしない。解放してくれるつもりはない、ということなのだろう。口付けられた花弁を通して、手のひらからじんわりと熱が伝わっていく錯覚が、ジョミーを襲う。深呼吸を繰り返して、ジョミーはブルーを見上げた。
「ブルー」
「ん。なんだい?」
「誕生日、おめでとう」
恥ずかしさで胸がいっぱいで、言葉に詰まりながらも、ジョミーはようやくそれだけを言った。愛おしさに細められていたブルーの目が、明らかな驚きに見開かれる。赤い、夕日のような瞳をしっかりと見つめ返しながら、ジョミーは『お・誕・生・日』と言い聞かせる。言葉を区切って繰り返せば、ブルーはひどく緩慢(かんまん) な仕草でまばたきをした。意識が驚きから抜け出す前に、ジョミーは言葉を重ねていく。
「本当は……本当は、お祝いしていいのかなって、迷ったんだ。ずっとお祝いされてなかったって聞いた時は驚いたけど、ちょっと納得もできたのも、ホントで。……ねえ、ブルー。ブルーは生まれて、育って、ミュウとして覚醒して、それからずっとずっと長く生きてきたんだよね?」
三百年。言葉にするのは簡単で、想像するのは難しい。途方も無い長さは、考えただけでも果てが見えない。
「嫌なこと、多かったと思う。生まれてきたこと、後悔するとか……すごく悲しいけど、あったと、思うんだ。無かったら、ごめんなさい。でもぼくだったら、ぼくが、ブルーの立場だったら……一度くらいは、そんな風に考えてしまうかも知れないから。だから、もしかしたらぼくは、すごく酷いことを言ってしまうのかも知れない、けど」
許して、と言って。ジョミーはブルーに腕を回してすがり付くように抱きつき、その耳元でそぅっと囁いた。
「ブルー。生まれて、くれて、ありがとう。生きていてくれて、ありがとう。あなたに会えて、本当に嬉しい」
「ジョミー」
「あなたの存在を、それでもこの世界に、感謝します」
涙が零れ落ちていくのは、辛い記憶がよみがえったからではない。使い捨ての実験動物のように、迫害され命を削られた日の思い出は今も鮮明で、不意に蘇っては心を深く抉っていく。灼熱の蒸気の中に閉じ込められ、あるいは極寒の氷の中に叩き出された。動物ですらない、ただの道具のような扱い。それを成したのはこの世界と、そしてそこに住む人間なのだけれど。今感じるのは、憎しみではなかった。
言葉にできない途方も無い感謝を、捧げることができるのは、それでも『世界』だ。厳しく、憎らしく、苦しく、むなしく、優しく、愛おしく、柔らかく、途方もない世界。その腕に地球を抱く世界に、捧げること気持ちが感謝であることは、なんという幸福なのか。希望もなく、明けない夜に差し込んだのは光で。それにどれほど救われただろう。愛しい太陽を抱きしめながら、ブルーは言葉にならないため息をついた。
「ジョミー」
「……うん」
「ジョミー。ジョミー……ありがとう。君に会えて、よかった」
暗く永い夜を引き裂いた輝き。太陽。いつしか誰かが、希望と呼んだ。はにかむ笑みを浮かべて、ジョミーはうん、と頷く。そしてブルーにもう一度、お誕生日おめでとうございます、と言った。