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3:旅のしおり

 星の降る国より -入学許可証発送のお知らせ-

 ちかちかと、青年の周囲を淡い光が飛び回っていた。蛍を思わせる淡い輝きは、暗い旅路をそっと照らし出す一筋の希望になることだろう。そう思いつつ、青年は、手元にある資料を難しげな顔をして覗きこみ、やがて意を決したように空欄に名前を書き入れた。指名がなされたのだ。
 わっと歓声に似た気配がささやかに空気を揺らす。一枚の紙は鈍い金の輝きを放ちながら浮かび上がると、ひとりでに折りたたまれ、ちょうど絵葉書くらいの大きさになった。それを、ちかちかと飛び回っていた淡い光の主、案内妖精の一人が進み出て、持っていた封筒に恭しくしまい込んだ。
『もう、行っていい?』
「……うん。くれぐれも、気をつけて。彼らが無事に、ここまで辿りつけるように、どうか力になってくれな?」
『必ず!』
 ちいさな両腕で封筒を抱きかかえ、二枚羽の妖精が開かれた窓から飛び立って行く。それを見送って、青年は椅子に深く背を預け、疲れ切ったように目を閉じた。指名を待つ妖精たちが急かすように青年の名を呼ぶが、そんなに簡単に決められるものではないのだ。
 まず、入学許可証を喜ぶ者ばかりではないだろう。それはもう分かり切ったことだった。『学園』への強制召集となるそれは、魔術師に対する完璧な保護を約束する代わり、彼らの思い描いていた人生設計、夢の一切を奪い、白紙へと返す。一人の例外も認められない。今はまだ、どうしてもそれを許してやることができない。この世界はあまり、魔術師に対して優しくないままだ。
 相性がある。案内妖精となって彼らの一人きりの旅路の伴となる彼、あるいは彼女たちにも個性がある。無口なもの、ひょうきんなもの、嘘つき、気まぐれ、短気。面倒見がいいもの、やさしいもの、誠実、一筋、穏やかな性質。あまりに攻撃的な性格の妖精は、そもそも案内役としての選考から外されているので、入学予定者に悪意を持って向かう者はいない。けれども、相性がある。
 彼らと、案内妖精との相性。時として一生の絆にもなるであろうその出会いだ。どうか憎まないで出迎えて欲しい、と思う。嫌わないであげて欲しい。悪いのは運んで行く彼らではなく、見つけてしまった自分なのだと、思って。
「……間に合わなくて、ごめん」
 その力が誰かを傷つけてしまう前に、見つけてあげられなかったことを悔いる。
「見つけてあげられなくて、ごめん」
 夢があっただろう。希望を持って将来を描いていたことだろう。この一枚が、それら全てを切り取って行く。
「……ごめんな」
 けれども、どうか。魔術師として生まれたことを、嫌だとは、想わないで。



【入学許可証が発送されました。】


 案内妖精について


 体長:平均10センチくらい
 性別:女性形と男性形が存在している
 性格:千差万別。入学者との相性を考慮して送られてくる。
 口調:性格に準ずる。個性豊か。口汚いのもいる。
 容姿:総じて非常に美しい、また、愛らしい。
 色彩:個体によって異なる。


 特記:魔術師の卵(入学予定者) 以外には視認することができない。王宮魔術師など、学園の卒業者はこの限りではない。が、一般的に淡い光の球として視認できることがあるようだ。夜道では灯りの代わりにもなってくれるだろう。
 妖精には属性がない。
 案内役ではあるが、彼らが告げる情報にはかなりの個人差が存在する。最低限のことだけを告げる者、詳しく教えてくれる者、聞かれたことしか答えない者など、様々である。


 旅に必要な持ちもの

 1 入学のお知らせ 二枚羽の妖精が届けてくれたお知らせ。
 2 角砂糖 忘れないようにね!
 3 履き慣れた靴 長旅になることもあるからね。
 4 生活に必要と思われるもの お金とか、着替えのこと。
 ペットの持ち込みはあらかじめ許可を取る必要があるよ!
 無許可持ち込みが判明した場合、ペナルティがあるよ!
 その他 夏至の日までに『入口』に到着してね!

 保護者・ご家族の皆さまへ
 1 制服は入学後に支給されます。また、魔術師の証となるローブも支給されます。カスタマイズは常識の範囲内で可能ですが、実技・実習・試験などに差しさわりがあると判断された場合、ペナルティがあります。
 2 入学式を含め、学園までの道のりにおいて、保護者の同行はお断りしています。特別な事情がある場合、入口までの同行は認めますので、審査の為、各国の王宮魔術師までご連絡ください。

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