力強い唸り声を上げて、機械が稼動を始めた。動力かなり食ってるから、今攻撃でもされたらかなり危険だよね、と縁起でもないことを言いながらシロエは振り返って、ジョミーを見る。
「準備できたね?」
「うん!」
「よし、じゃあ帰ることだけを考えるんだよ。余計なことは思わないで。きみのブルーのことだけ考えてればいい」
そうすれば向こうがきみを掴んでひっぱってくれる筈だからね、と言うシロエに頷きながら、ジョミーはブルーを横目で見た。ブルーは真剣な表情で集中しているが、まとう空気はどこか甘く、優しい。向こうのジョミーを捕まえる為に、ひたすら彼のことを考えているからだろう。なんとなく寂しい気持ちになれば、その瞬間、準備が完了した。ふわっと体が浮き上がり、いきなり転移させられる。眩暈がした。
別れを言いたかったとか、そんなことをかすかに考えながら意識を保つ。それは時間にしてほんの一秒か、二秒くらいの間だったのだけれど。ふっと意識が固定された瞬間、目の前を赤いマントが横切った。その衝撃と光景は、相手も同じことだっただろう。すぐ目の前に、年齢が違うだけの顔があった。鏡を見ているように、同一の瞳が覗き込んでくる。
『もう一人の自分』が、手が届く距離に存在していた。
手を伸ばそうとしたのは、どちらだったのだろうか。どうして、触れようとしたのだろうか。それは本当に衝動的なもので、どちらもその答えを知らなかった。赤いマントが揺れる。指先が限界まで伸ばされて、爪が相手のそれを弾くくらいに近づいて。どちらかが、口を開いてなにかを言いかけたのだけれど。息を吸い込んだとたんにまた眩暈があって、気がつけば視界に移っていたのは、夕陽色の瞳だった。
ぼんやりとした意識が、勝手にそのひとの名を囁く。
「ブルー」
「おかえり、ジョミー。ぼくの太陽」
穏やかに額に唇を押し当てられて、ジョミーは信じられないほど安堵した気持ちで目を閉じる。このまま眠れそうだった。寝ていいよ、と笑いながら囁いてくる言葉に甘えて意識を手放しながら、ジョミーはぼんやりと、もう一人もこんな気持ちで居るのかもしれないと、考えた。