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 ストルは、いつもやさしかった。リトリアが痛いことはしたくない、と囁いて、やさしく、あまく、触れるひとだった。抱き上げる腕は柔らかな力でリトリアを包み込み、髪を撫でる指先も、梳かす櫛も、かすかな違和感さえ与えられたことがない。砂糖菓子のような幸福と、硝子細工のような繊細さで触れてくる。そんなひとだった。そんな記憶しかないひとだった。それなのに、リトリアを抱く腕は息が苦しくなる程に強い。腰を抱く腕も、背を抱き寄せて指先で髪を弄る仕草も。耳元で名を呼ぶ低く掠れた声の響きも。ぜんぶ、ぜんぶ、しらない。
「ストルさん……? ストルさん、ストルさんっ……!」
「リトリア」
 膝の上に抱きあげられて、腕の中に閉じ込められるように抱き締められて。ストルの肩口に顔を埋めるように体を預けているから、囁く声が全て、耳に直接触れるよう流しこまれて行く。低く。あまく、あまく、囁く声。全身が、胸の奥までがぞわりと震えて、体のどこにも力が入らなくなる。目を細め、ストルは微笑んだ。髪をするすると撫でていた指先がずれて、リトリアの頬を撫でていく。相変わらず素直だな、と囁かれても。リトリアは意味が分からず、ふるふると首を振ることしかできなかった。どうしてこんなことをするの。どうして。なんで。わたしのこときらいなのに。
 きらいって、いったのに。
「や……! や、やっ……ストルさん、はなして……!」
 いや、と肩を押しのけて離れようとするリトリアの、腰にぐるりと腕が回されていて身動きができない。ストルが息を吐きだした。びくん、と身を震わせて怯えた顔つきになるリトリアに、怯えないでくれないか、と困ったように囁き、ストルが目を向けてくる。漆黒の瞳。柔らかな紗幕で何重にも覆われた寝台に落ちる、柔らかな、影の色。魅入られて動けないリトリアの頬を包み込んだまま、ストルは柔らかく笑みを深め、囁き落とした。
「リトリア。……俺の、かわいい、リトリア」
「え……え、えっ」
「離してほしい? ……違うだろう」
 幾度も、幾度も。頬のまるみを辿るように、ストルの指先がリトリアの肌を撫でて行く。ふるっと身を震わせるリトリアに、ストルはやわりと目を細め、喉を震わせて低く笑った。
「離さないでほしい、と言ってくれないのか?」
 昔のように、俺に傍にいてほしいと。あまえてくれないか。それを許してくれないか、リトリア。俺を、どうか。求めて。囁かれて、リトリアは混乱にぎゅぅと目を閉じ、瞼を震わせながら息を吸い込んだ。悲鳴じみた声がこぼれる。
「なんで……!」
「……うん?」
「私のこと、きらいなのに……なんで、そんなこと、いうの……?」
 怖い。怖かった。ぞわぞわと臓腑を撫で背筋を駆け上って行く気味の悪い恐怖が全身を支配する。リトリアは予知魔術師だ。極めて魔力の純度が高いとされる、それによる暴走も経験したことのある、予知魔術師なのだ。たくさん学んだ。たくさんの文献を頭の中に叩きこんだ。だからこそ、その可能性に辿りつく。予知魔術を発動させたまま、好き、と言ってしまえば。それは魅了になることもあるのだと。相手の意思など関係なく、感情を魔力でもって塗りつぶし。そうさせてしまうのだと、知っていた。予知魔術の発動はいつ解除したのだろうか。それを、思い出すことが、できない。
 怖くて、目が開けない。もし、ストルが知らない目で、恋に浸された操られていた目でリトリアを見ていたら。そんなことには耐えきれない。震えながら目を開けないリトリアの耳元で、ストルが笑み混じりの囁きを響かせる。
「……きらいだなんて、だれがいった? そんなことを言うやつがいたら教えてくれ。息の根を止めてやるから」
「ストルさんが……いった。言ったもの! 言ったものっ!」
「いってない。いってないよ? リトリア。それでも言ったと言うのなら、過去の俺と今、リトリアを抱きしめる俺、どちらを信じる? ……さあ、目をあけてくれないか、リトリア」
 涙の滲む目のふちを、ストルの指が丁寧になぞっていく。震えたまま瞼を持ち上げられないでいる、その様すら。いとおしくてたまらないのだと、告げるように。笑い交じりの声が囁いて行く。リトリア。りとりあ、どうか。目をあけてくれないか。俺のことを。みて。リトリア。記憶の中で囁く声の優しさと。それは似ているようですこしだけ違うものだった。熱に掠れ、あまやかに響き。肌をやわらかく撫であげて行くような。吐息を震わせるようなその囁きは。知らない。
「リトリア」
 ぐ、と。腰を抱き寄せる腕に力が込められた。
「俺がほしいと。……いってごらん?」
 あなたが。ほしい。震えるくちびるが操られるように綻び、囁いてしまいそうになる。求められたからではない。告げるようにと乞われたからではない。それがリトリアの望みだからだ。ぎゅぅ、と震える瞼に力を込める。仕方ないな、と告げるよう、薄闇の向こうでストルが笑った。するすると指先で頬がなぞられる。撫でられ、じわじわ、熱を分け与えられていく。泣きそうな気持ちでリトリアは息を吸い込んだ。すとるさんが。ほしい。けれど。でも。それいじょうに、わたしは。
 あなたのものに、なりたい。
「……なでちゃだめ……」
 いや、とむずがるように首を振るリトリアの瞳から、あふれた涙が頬を伝う。笑みを深めて身を屈め、ストルはいや、と訴えられるのを無視してその雫に口付けた。はぁ、とあまく。喉を震わせてうっとりと吐き出される少女の吐息が、言葉の訴えをなにもかも、裏切っている。恥じらいに震えながらひらく、瞼の奥の。涙を零す瞳の、あまくあまくとろけた蜜のようないろが。ストルのことを誘っている。引き留めて。もっと、と告げるように、花色のくちびるが震えていた。
「リトリア」
「やぁ……! やだ、やだっ……きらいなのに、ストルさん、私のこときらいなのにっ……! きらいって、いった。言ったのに……! 会いたくないって、うんざりする、って。めんどうみきれないって、いったの、に……!」
 うんざりする、くらいは言ったかもしれないが。それはうんざりするほどかわいいとか恋しいとか愛しいだとか、かわいいとかかわいいとか、かわいいとか、愛しているだとか。かわいいとか。そういう理由と言葉であって。断じてうっとおしいだとか、リトリアが悲しむような意味ではないのだが。しかしいくら記憶を探ろうとも、会いたくないと、嫌いだけは、言った覚えがなかった。当たり前だ。リトリアにそんなことを言う輩がいたら、とりあえず生まれてきたことを後悔させてから息の根を止めてやる。どうしたものか、と思いながら、ストルはいやいやとむずがって泣くリトリアの頬を指先で撫で続けた。いや、と泣いて首を振るばかりで、リトリアの手がストルを押しのけることはなかった。
 その手はずっと、ストルの服を握り締めている。きゅぅ、とあどけなく力のこめられたてのひらが。わたしのそばにいて、と。訴えている。服を放そうとしないその手に指先を伸ばして、ストルはやや強引な仕草で少女の指の間から服の布地を引き抜いてしまった。ひぅ、と悲しげな、押し殺した悲鳴がリトリアの喉奥から掠れて響く。ごめんなさい、と告げられるよりはやく。ストルはリトリアの瞳をしっかりと覗き込んだまま、少女の指先を口元へ引き寄せた。
「リトリア」
 びくん、と怯えに震える体は、それでもストルの腕の中から逃げようとしない。花蜜のように溶けた瞳が、涙の奥から恐る恐る、ストルのことを伺ってくる。あわく息を吸い込むくちびるを視線で撫でながら。ストルはそっと笑みを深めてみせた。
「……リトリア。俺の、言葉を……今の、俺の言葉を、どうか……信じてくれ」
 桜色に淡く艶めく、透明な爪先に唇を押し当てる。視線を絡め取ったまま。濡れた音を立てながら唇を僅かに離してやれば、幾度かの瞬きのあと、リトリアの指先に震えるような力がこもった。じわじわと赤らんだ頬に、見開かれた瞳からまた一筋、涙が伝う。それをそっと、また舌先で舐め取って。びくりと震えるリトリアの背を宥めるように片手で撫で下ろし、またストルは微笑みながら、リトリアの手に口付けた。手の甲に、てのひらに。指先に、爪の上に、指の付け根に。ゆっくり、しっとりとした仕草で、口付けていく。は、とこぼれる息は掠れてあまく。
「リトリア」
「……っ、ストルさん……?」
「そうだ。いいこだな、リトリア……俺のことを見て。そのまま、目を逸らさないで……かわいい。かわいい、おれの、りとりあ……」
 素直に。俺のことが好きだと。いってごらん。そのかわいいくちびると、こえで。左手の、薬指の、付け根に。歯を立てるように食んだ唇が離れ、リトリアの耳元であまく囁きかけてくる。いってごらん。昔みたいに。素直に、俺を。求めてごらん。意識に。刻み込むように、何度も、何度も。囁きかける声が、リトリアの意識を混乱させていく。思い出す。三月末のことだった。窓の外には春の花が。きらいだと言われた。うんざりすると言われた。この声で。この声で確かにストルは言ったのに。リトリアに、そう告げて。二度と会いたくないと言って卒業してしまったのに。
「リトリア」
 何度も、何度も囁く声が。頬に口付け、瞼の上に、鼻先に、唇を押し当てながら。どんなにか聞きたかった、やさしいやさしいその声が。何度も何度もリトリアを呼んで。あまりに。いとしいと。つげるので。
『――うんざりする』
「……っ!」
 頭の中でわん、と響いたその声を、はじめてリトリアは心の底から拒絶しようとした。言わない。ストルさんは絶対にそんなことを言わない。いまもこんなに私をすきでいてくれると、信じてほしいと言ってくれるこのひとは、決して決して私に。そんなことを。
『嫌いだ』
 言わない。それは三月の末のことだった。春の花の咲く頃だった。ぐるぐると渦を巻く砕かれた記憶が悲鳴じみた声でリトリアにそれを投げかける。そう。それは三月の末。春の花の咲く頃。そう言ってこのひとはいなくなってしまった。けれど思い出して取り戻して。ストルさんが。卒業したのは。ツフィアが。いなくなったのは。年が明けてすこしした頃。三月より前。花なんて咲いていなかった。喉の奥から悲鳴が零れる。内側に刻まれた魔力が荒れ狂い、その判断ごと削り取っていく。白く癒す魔術に溶け込み、隠れて。書きかえられた言葉がリトリアの想いを奪い去っていく。それでも、恐怖と苦しみが意識を閉ざしてしまうより、はやく。
 ストルの唇が、泣きだしそうなリトリアの目尻に、押し当てられた。
「泣いてもいい。……でも、信じてくれ、リトリア」
「ストルさん……」
「あいしてる」
 許可を求めるように。ストルの指先が、リトリアのくちびるを撫で擦った。触れたいと。告げるその仕草を。信じたくて。リトリアは震える声で、ストルを呼んだ。泣きそうな響きで。たった一言。告げる。
「好き……」
 ストルさんが。好き。囁くくちびるに、ストルはそっと口付けて笑う。
「ああ、そうだ。リトリア、もっと、ちゃんと、何度でも……俺のほしい言葉を紡いでくれ」
 すき、と告げるくちびるに口付けながら。ストルは淡く息を繰り返すリトリアのあごを指先で上向かせた。は、と開くくちびるに、舌先を触れさせようとした、その瞬間だった。廊下の彼方から聞こえてきた足音と共に、うわああああああっ、と裏返った二つの声が、二人の姿を見つけ出す。
「ストルちょっ、まっ……! うわあああああ! ちょ、まっ、ばっ! ストルそれはいけないと俺思うなああああああっ!」
「うわぁストルとリトリアちゃんだー。うふふ、やだもうストルったらー、ストルったらー……ストルったら……そうだ、星降に、帰ろう」
「終わったら帰ろうな! 終わったらっ……!」
 やだもう帰る帰るそして私全ての記憶を失って寝る、と嫌がるレディを引っ張りながら全力疾走してきたフィオーレは、ふたりの目の前に火の魔法使いをぺいっとばかりに投げやると、こら、とストルに対して怒った。
「ストルちゃん! ちょっとそれはいけないと思うな! 廊下だし!」
「ちっ……ああ、そうだな。誰も来ない部屋の中ですべきだった。次回からそうする」
「ひいいいぃいいこれだから砂漠系男子は……!」
 ああうんそれなら、と真顔で頷きかけるフィオーレの頭を全力で殴り倒し、なんで納得しかけてるのよこの馬鹿ああああっ、とレディが絶叫する。その勢いで、レディは真っ赤な顔で動けなくなっていたリトリアを、ストルの腕のなかからひったくるようにして保護した。あああもうリトリアちゃんは私が守ってあげなくっちゃストルからの監禁の危険とかそういうことからもっ、と決意するレディは、ふと鼻先を掠めた香りに目を瞬かせた。それは春のひかりに目覚めたばかりの、咲き初めの花の香りだった。瑞々しいそれを数種類摘みあげて、腕に抱いているかのような錯覚さえある。幾度か瞬きをして、レディはリトリアを一人で立ちなおさせながら、不思議そうに首を傾げて問いかける。
「……リトリアちゃん、お花の匂いするね? シャンプーとかリンス……?」
 あと私今ストルと目を合わせたら物理的に死ぬ気しかしてないからちょっとこっち見ないでくれる、と本気で嫌な顔をしながらも不思議そうに呟いたレディの声に、リトリアが顔を真っ赤にして首を振り、フィオーレは額に手を押し当てた。なんだというんだ、と訝しむストルに、フィオーレもほんのりと頬を赤く染め、聞かないでやって、と呻くように囁く。
「今のリトリアには、どのみち、説明できないことだから……」
「……お前のせいで、な」
「はいはいすみません。そのことについては反省はしてるって何回も言っただろ?」
 ただし、後悔はしてない、が後につく反省はしている、であるのだが。なぁにそれ、と眉を寄せるレディに、溜息をついて立ち上がりながらストルが簡単に説明していく。リトリアの、学園に来るまでの記憶がないことはある程度有名な話だから知っていると思うが。
「魔力暴走が原因とされているが、厳密にいうと……暴走させたのがフィオーレだ。記憶が消えるように、暴走の方向を操作したのも」
「あ、分かった、分かった。とりあえず私は? フィオーレを? 焼き殺せば?」
「レディ目が本気ちょっと待って落ち着いて! 俺にもね! ちょっとね! 事情というものがあってねっ!」
 うるさいわよとりあえず死になさいよと告げるレディの腕を、慌てふためいた仕草でリトリアがひっぱる。いいの、大丈夫なの、と声をかけられて、レディは訝しげにリトリアを見下ろした。
「いいの……? あ、そっかそっか。そうだよね。丸焼きより火あぶりだよね? いっけない」
「ちがうのちがうの……! えっと、えっと……あ、あっ! レディさん、そういえば、どうしてフィーと一緒なんですか? ふたりとも正装だから、なにかお仕事だったとか……?」
「立ち向かわなければいけない現実が! 憎い! 現実なんて燃え尽きてしまえばいいのよ……!」
 だんっ、と壁に両手を打ちつけて嘆くレディの会話や行動に落ち着きというものはないが、それはそれ、いつものことである。ストルは同僚であるからこそ、フィオーレは魔法使い同士であるからこそ、そしてリトリアは在学がややかぶっていたからこそ、それを知っていたし、慣れてもいた。よかったいつものレディさんですね、と胸を撫で下ろすリトリアに向き直り、火の魔法使いはふ、と達観した笑みを浮かべた。
「リトリアちゃん……」
「はい……?」
「……ごめんね。もう決まってしまったの。私にも、あなたにも、覆せることではなかったの……」
 苦しげに告げ、レディの手がリトリアの耳に伸ばされる。リトリアが反射的に逃げようとするよりもはやく、ぱちん、とその耳元で音がした。右の耳にだけ、白蓮の飾りが揺れるイヤリングがつけられた。レディの左耳には、まったく同じ白蓮のイヤリングが揺れている。なに、と目を瞬かせるリトリアの、左手に指先が触れた。視線を向けるとフィオーレはごめんなと囁き、リトリアの左手を捧げるようにしてもった。小指に、銀の指輪が通される。それはイヤリングと同じく、花開く白蓮の意趣が刻まれ。フィオーレの右の小指に通された指輪と、まったく同じものだった。
 たった今、この時より。魔法使いの声が唱和する。
『世界を託されし五ヶ国の王の命を受けしわたくしたちが、かりそめの、あなたの剣であなたの盾』
「……え?」
『予知魔術師、リトリア。藤花の姫君たるあなたに、わたくしたちの守護と、やさしい眠りを捧げます』
 すとん、とリトリアの前に片膝をつき、フィオーレは少女の左手を握り締めた。
「守るよ。どんな痛みからも、どんな傷からも。守ってみせるよ。……俺は、お前に用意されたかりそめの盾。お前がもし、ふたたび、望む時が巡るまでの……俺が、予知魔術師リトリアの、守護役」
「……私があなたの殺害役よ、リトリアちゃん。私が、あなたに用意されたかりそめの剣」
 レディの手が伸ばされ、リトリアの耳元に触れる。そこで可憐に揺れる白蓮の花を、指先で撫でながら。
「守ってみせる。あなたを。あなたがもし、私を頼ってくれたなら……どんなものからでも、守ってあげる。助けてあげる」
「レディさん……」
「……でも、もし。私の力及ばぬ時は」
 この世界があなたを殺してしまえ、と叫んだ時は。レディは指先を震えさせもせず、白い花飾りを手の中に隠した。
「私の腕の中であなたは目を閉じる。痛みもなく、悲しみもなく……一瞬であなたは眠る。これは誓いよ、予知魔術師。火の魔法使いと呼ばれる私から、予知魔術師としてのリトリアちゃんへ、捧げる誓い。……その時が訪れないことを祈るけれど、もしも、私があなたを眠らせる時が来たとしても、一瞬。かならず、一瞬で、あなたは眠りに落ちる。安らかで、しあわせな夢をあなたにあげる」
 す、と息を吸い込み、レディは告げた。
「『夜に眠る花のようにあなたは閉じる。暖炉の前でまどろんだ、幸福な記憶と共に。私は必ずそれを贈る。あなたはただ、私の腕で目を閉じればいい。眠るように瞼を閉じ――そして、焔と踊れ。火に触れる花のごとく、一瞬であなたが消えていくよう』」
 どうか、抵抗は、しないで、と。囁き告げるレディが、リトリアにつけた耳飾りからぱっと手を離す。白い花飾りは火の魔力を宿し、ほのあまく、赤い光を帯びていた。



 砂漠の国の白魔法使い、フィオーレ。星降の国の火の魔法使い、レディ。二人が楽音の予知魔術師リトリアの、守護役と殺害役として決められてしまったのは。リトリアがまだ、保健室で眠る頃のことだった。冬の日、暖炉の前でまどろむ幸福な夢に。しあわせを抱いていた時の、ことだった。

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