「……思い出しちゃったんだよね」
「なにをだい?」
「君が、僕が本当に一生懸命収穫したメイプルシロップの缶をひっくり返してダメにした時のこと」
「マシュー、目が怖いんだぞ」
「思い出したらムカついてきたんだもの」
「わ、忘れるのがお互いの為だと思うんだぞ!」
「……忘れる?」
「……」
「……」
「マ……マシュー?」
「……ねえ、アルフレッド?」
「な、なん、だい」
「君のアイスを消してあげれば僕の気持ち理解できる?」
「悪かった! 本当の本当に悪かったんだぞ! ごめんなさいそれだけはっ! それだけ、はー!」
「……ホントに反省してる?」
「してる! してるぞっ!」
「二度としない?」
「ブシのナサケに誓ってもしないんだぞ!」
「……菊さんに日本語の正しい使い方、今度教えてもらおうね、アルフ」
「え?」
「いや、え? じゃなくて」
「……まあ、いいじゃないか! ノープロブレムだよ!」
「うんまあいいけどさぁー……」
「で、なにしに来たんだい?」
「君の顔見に来ただけだけど」
「うん。で、なにしに来たんだい?」
「……君の顔見に来たんだけど」
「OK! で、なにしに来たんだい?」
「……」
「……」
「……」
「……マシュー?」
「……うん」
「うん!」
「うん。アルフレッド、ひとつ聞くけど。君、僕が冷凍庫のアイス全部食べちゃったら泣くよね」
「近所のマダムが警察呼ぶくらい泣くけど、それがなんだい?」
「しないから銃のお手入れするの止めてくれないかな」
「ははは! 冗談なんだぞ!」
「……」
「……マシュー?」
「ううん。……ううん、ただ、君のことなら分かるのにな、と思って」
「俺のこと?」
「うん。そう、君のこと」
「なんだ、そんなの当たり前じゃないか!」
「え?」
「だって俺たちは兄弟なんだぞ! 兄弟なんだから、分かって当たり前じゃないのかい?」
「……」
「俺は君がなにしたら泣くかなんてすぐ分かる。泣きたい時も、だから、分かるつもりだよ」
「……うん」
「……でも、泣く前にちゃんと相談するんだぞ! 俺はヒーローだからね。涙なんて笑顔に変えてやるさ」
「うん。ありがとう、アルフレッド」
「どういたしまして!」
「ところで」
「え?」
「僕がやったら泣くと思ってることって、たとえばなに」
「君の目の前で君の秘蔵のメイプルシロップを飲み干すとか」
「やったら絶交」
「ぜっ、絶対しないんだぞ……!」