「ぼこり愛が見られそうな予感です。わくわくー」
「……菊。我はお前をそんな子に育てた覚えはねーあるよ」
「育っちゃったんだから仕方がないでしょう。諦めてください」
「いや、諦めきれねーある……」
「人生諦めが肝心、と昔の偉い人が言ってましたよ?」
「具体的に誰ある」
「最近記憶力がとんと悪くて思い出せませんああ困りました」
「……三日前の夕食に食べたのは」
「耀さんの手作り肉まん。本当に売って良いと思うんですよむしろ売ってくださいお願いしますですよ! なんですかあの肉汁溢れた豚肉のうまみ、タケノコの食感にしいたけの香り豊かな味わい……! ニラもたっぷり入って彩りも食欲をそそり、ショウガも私好みにバッチリ利いていてもう……! 毎年思いますが、肉まんひとつで楽園直行とかすごすぎると思うんです。食べたくなりました。作ってください、にーに」
「……お前……なぁ」
「お願いします、にーに」
「……菊」
「あ、可愛らしく『お兄ちゃん』がいいですか? それとも硬派に『兄上』? いっそあれですか。そちの為にもだ」
「萌えを安売りすんなある」
「今売らなくていつ売るんですか必要な時はためらいませんよ私は」
「ちったぁ自重を覚えるある……なぁにが記憶力が悪い、か。冴え渡ってるね」
「都合の悪いことと食事を比べられても困ります」
「菊」
「はい」
「すこし、反省させる必要がありそうか?」
「ああありませんなにもありませんなにひとつとしてありませんんんんっ! ちょ、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいいやあああどこに隠し持ってたんですかそのディスクなんのディスクですかまさか昨日買って来たゲームのロムとか言いませんよね言わないですよね私信じてますからぁっ!」
「残念。菊が昨日買って来たソフトあるよー」
「ふぎゃああああ! どうして耀さんはすぐそうやって私の魂を折ろうとするんですか鬼ーっ!」
「こうでもしないと、お前反省しないだろう」
「心底仕方ないな、と思ってる口調は冷静に心に来ますね……」
「すこしは冷静になったあるか……?」
「……やめてください。そんな冷たい目で見られると目覚めそうです」
「……」
「……ごめんなさい嘘です」
「本当に、しょうのないコあるねー」
「うぅ……ところで、香君はどこに?」
「あ? 話題ずらそうったってそうはいかねぇあるよ。仕事させてるが、そろそろ終わる筈……いや、とっくに終わってる筈の時間あるね」
「どうしたんでしょうね。今日は一緒に御夕飯の予定でしたのに」
「……そういえば、さっき、誰か尋ねて来たあるね」
「私のお客様とは、別の?」
「二人で一緒に来て、先に一人帰ったあるね」
「ちなみに、もう一人にはお会いしてませんが、どのような方で?」
「……確か、英連邦の小娘あるね。赤いリボンの」
「ああ、セーシェルさん」
「そうそう。塞舌爾……ん?」
「……え、セーシェルさん?」
「……」
「……」
「菊」
「はい」
「客が来てから如何ほどあるか」
「二時間くらい、でしょうか」
「……」
「……」
「……だ、だめあるっ! 香! にーにはそんな、許さないあるよー!」
「そうですよっ! 私今日デジカメもビデオもなにも持ってきてないのに!」
「菊ー!」
「ぎゃあああ! 折れたーっ!」