BACK / INDEX / NEXT

 6・5 性別を知らなかった女性の、静かな呟き

「……アンタって馬鹿よね」
「うるせぇしみじみ言うな……!」
「今になってそんなに恥ずかしいくらいなら、言わなきゃよかったのに」
「だ、だってよ」
「それとも、なぁに? 私に抱きついて離れない理由でも欲しかった?」
「それはない」
「そこは嘘でも頷けよ」
「エリザが怖いぜ……! こ、ことりちゃん助けっ……!」
「残念ね。ことりちゃんはお昼寝中でした」
「……っ!」
「……」
「……」
「……悪友って」
「あ?」
「悪友。言ってたじゃない、悪友じゃなくて親友になりたい、って」
「エリザお前どっから聞いてた」
「どこからにして欲しい?」
「全部聞かなかったことにして欲しいぜ?」
「そう。だが断る」
「このドエス……っ!」
「よしよし、ギルは可愛いわねー」
「兄上、ルート。はやく帰って来てくれ……!」
「あと三時間は無理じゃないかしら。遠くのスーパーに買い物に行ったようだから」
「どんだけ遠いんだよ!」
「仕方ないじゃないの。運転手がローデリヒさんなんだから」
「わざとローデリヒに運転手頼んだだろ」
「だってローデリヒさん、たまにはドライブしてみたいですねって言ってたんだもの。ベルンちゃんとルートが一緒なら安心じゃない。どんなに時間がかかっても、いつかは家に帰って来てくれるわ」
「……確実に国境を二つは超えるドライブになりそうだぜ」
「さっきスイスについたってメールが来てたけど」
「目的地はスーパーだろ? 徒歩でも二十分のスーパーだろ?」
「夕食には間に合わないかも知れないわね……」
「いやもうどう考えても無理だろ……」
「それで親友のことだけど」
「話が元に戻りやがった……!」
「……ねえギル」
「な、なん、だよ」
「親友、なりたいの?」
「は?」
「フランシスとアントーニョの親友に、なりたいの?」
「……なりたくなかったら言わねぇもん」
「……」
「……エリザ?」
「……んでよ」
「え」
「なんでよ。いいじゃない、悪友で」
「……エリザ」
「なによ」
「なんでそこに嫉妬すんのか意味分からねぇんだけど」
「だってアンタの親友って私だけだったじゃない。ずーっと昔の話だけど」
「あれは親友ってか戦友じゃねぇ?」
「あー、まあそうかも。占有」
「エリザ」
「なによ」
「今なんか意味違った気がすんだけど」
「気のせいよ」
「……とにかく! そこ、お前の嫉妬するとこじゃねぇから!」
「……」
「……」
「……」
「……悪友は親友になれるかも知れねぇけど」
「……」
「親友は、恋人になれないだろ?」
「……」
「……」
「……ギル」
「おう」
「許してあげる」
「おう」

BACK / INDEX / NEXT